オリンピックという最高の舞台での活躍を目指し日々トレーニングに励むTeam Visaアスリートたち。
競技も年齢も環境も異なるものの、同じく世界の頂点を目指す彼らは皆、日々進化を続け、
まさに明日の当たり前を生み出しています。
そんな彼らが、互いのトレーニング方法や競技への向き合い方、オフの過ごし方などを対談形式で語り合うとき、そこは新しい発見に溢れ、彼らの明日の当たり前に繋がっていきます。
オリンピックという最高の舞台での活躍を目指し日々トレーニングに励むTeam Visaアスリートたち。
競技も年齢も環境も異なるものの、同じく世界の頂点を目指す彼らは皆、日々進化を続け、
まさに明日の当たり前を生み出しています。
そんな彼らが、互いのトレーニング方法や競技への向き合い方、オフの過ごし方などを対談形式で語り合うとき、そこは新しい発見に溢れ、彼らの明日の当たり前に繋がっていきます。
Team Visaアスリートの中で、最年少の中村輪夢選手(BMX)が、スキージャンプ界のレジェンド葛西紀明選手を訪ねました。
合同トレーニングセッションで打ち解けた後に行った対談では、まったく違う競技のアスリートでありながらも、意外な共通点があることが判明。
2人の貴重な対談をお楽しみください。
対談に先駆けて行なった合同トレーニングで葛西選手からいろいろな練習メニューを教わった中村選手。多くのモノを吸収しようという意欲的な姿勢は、レジェンドの好奇心を大いにかき立てました。
葛西:輪夢君の競技は、東京2020オリンピックの新種目になったBMXフリースタイルだよね。「バイシクルモトクロス・フリースタイル・パーク」って、どんな種目?
中村:いろいろなサイズのジャンプ台を使って、1分間の演技時間に各自がオリジナルのルーティンを組んで、技の高さや難易度を競います。僕が大事にしているのは高さ。ジャンプが高いと技に余裕が出るんです。
葛西:高さを出すにはスピードが必要だよね。
中村:1分の演技を2回走るので体力も必要です。
葛西:技の種類は? どの技が難しいの?
中村:縦に回転したり、横に360度回ったり、ハンドルを回したり、手を離したり。複数の技をミックスしたコンビネーションもあります。ハンドルから手を離すのは簡単なのですが、縦に回るのが難しいです。
葛西:背中や頭から落ちることがあるだろうし、勇気がいるんじゃないかな。
中村:いつも恐怖と戦っています。つねに怖いです。
葛西:恐怖と戦うのはジャンプと似ているね。むしろ、ジャンプよりケガの確率が高いかもしれない。
中村:葛西さんはその怖さをどうやって乗り越えているのですか?
葛西:恐怖を感じるのはケガをしたときと同じ状況になったときだと思うのだけど、それを克服するには何度も同じ事を繰り返して練習していくしかないんじゃないかな。僕も左の鎖骨を2度くらい骨折しているのだけど、怖さを克服するのに10年くらいかかった。
怖いと思ったときに、どれだけ勇気を振り絞ってできるかだよね。そこでできたら少しずつ自信が増えていく。それを繰り返して、やっと10年掛けて恐怖心を取り除けた。
僕の競技も輪夢君の競技も、恐怖心というのは辞めるまでなくならないと思う。でも、僕は乗り越えてきたから、輪夢君も乗り越えられると思う。諦めないで続けることが大事だ。
中村:怖いときでも勇気を振り絞るしかないですね。やるしかないと思って頑張ります。
葛西:先に進むためには、恐怖は乗り越えないといけない。そこは勝負だよ。
合同トレーニングでは葛西選手が「ストレッチ、縄跳び、スラックライン、瞑想」のいろはを伝授しました。中村選手にとってすべてが新鮮だった様子です。
中村:一番驚いたのはスラックラインです。葛西さんのボディバランスがすごくて、ビックリしました。立っているだけでも大変なのに、10m以上も落ちずに歩きながら、しゃがんでみたり、横向きになってみたり…。
葛西:輪夢君も短時間ですぐに5、6歩まで行けたから、もう少し時間をかければ大丈夫。
中村:教えてもらうと少しずつ出来るようになったので、良かったです。ところで、葛西さんにアドバイスしてもらいたいことがあります。僕らの競技のBMXは1分間のルーティンを2度行なうので持久系の体力も必要なのですが、良い練習方法はありますか?
葛西:多分、どの競技にも共通していると思うのだけど、走るのが良いと思うよ。
僕は小中学生の頃、夏は陸上、冬にジャンプをやっていて、中学生まではいつも父親に「走ってこい」と言われていた。すごくイヤだったけど、それが持久力につながったと思う。
それに、走ることによって体力だけでなく、精神も鍛えられるし、走りながら自分はこうなっていきたいという目標も見つかってくるんだ。走ることって一石三鳥くらいあるんだよね。
中村:すぐにやります!
葛西:3日坊主でもいい。3日目に休んでも、その後またやること。とにかく継続が大事。そうすれば持久力がつくよ。
あと、輪夢君は今、高校2年生だから、そろそろウェートトレーニングを始める時期かもしれない。僕が本格的にウェートトレーニングを始めたのは高校2年生のとき。高1の冬にジャンプのワールドカップに初めて出て、「これでは世界で戦っていけない」と思って、学校にあるウェートトレーニングルームで隠れてこっそりやるようになったのが高2のときなんだ。
中村:まずは帰ったらランニングからやります。ストレッチもあまりしたことがなかったので、早速取り入れたいし、スラックラインもまたやりたいです。
葛西:やることがいっぱいあるね。強くなっちゃうよ!
中村:今、このタイミングで聞けて良かったです。それに、親に走れと言われるより、葛西さんに言われるほうがやる気になります(笑)
葛西:後で連絡先を交換して、毎日「走れ!」とメッセージを送ろうかな(笑)
16歳*にしてプロのBMXライダーである中村選手。46歳にしてなおトップジャンパーとして活躍している葛西選手のモチベーションの源が何なのかを尋ねました。
中村:葛西さんがここまでジャンプを続けて来られたのはなぜですか?
葛西:もう46歳になるのに*、なんでこんなに続けられたんだろうね。自分でもビックリしているけど、そこにはたくさんの理由があると思う。
まず、一番の理由はオリンピックで金メダルを獲ること。僕は今のところ、銀メダル2つ、銅メダル1つしかないので、やっぱり金メダルが欲しい。それが諦めきれない一番大きな理由。
2つ目はライバルの存在。1998年の長野1998冬季オリンピックで日本のジャンプ陣は団体の金メダルを獲ったのだけど、団体の4人のメンバーの中に僕は入っていなかった。あれを見て、いつか絶対に僕も金メダルを獲ってやろうと思えた。ライバルがいるから、悔しいし、勝ちたい。それが2つ目の理由。
3つ目は感謝の気持ち。僕には両親と姉と妹がいて、みんなが僕を応援してくれた。貧乏な家だったけど、お金をかき集めて合宿に行っておいでと言ってくれた。親の支えがなければここまでやって来られなかったんだ。今では所属する会社にも支えてもらっていて、それがやる気につながっているんだよね。
中村:僕も父や母に練習場につれて行ってもらうのですが、それが当たり前という感覚になってしまいます。それに、ライバルがいなかったら、うまくならなくてもいいかなと思ってしまうかもしれません。両親、ライバル、全員に感謝して、このスポーツに取り組めたらとあらためて思います。
葛西:若いときからこうやって感謝の言葉が出てくる輪夢君。ずるいなぁ。僕も16歳のときにこういう対談をしたかったなぁ(笑)そうしたらもう少しワールドカップで勝っていたんじゃないかな!
葛西選手はTeam Visaアスリートとして2018年2月の平昌2018オリンピックに出場しました。2年後の東京2020オリンピック*を目指す中村選手にはどんなアドバイスがあるのでしょう。
葛西:輪夢君がTeam Visaアスリートに選ばれたのは2018年4月だったけど、どんな気持ちだった?
中村:まずは自転車競技の選手として僕が初めて選んでいただいたことがうれしいですね。葛西さんのような他の競技の人と出会えるのもうれしいです。
葛西:Team Visaアスリートになると、ちょっとした優越感にひたれることがあるよ。平昌2018冬季オリンピックでは選手村の中にオフィシャルショップがあって、世界中のTeam Visaアスリートの写真が飾られているのだけど、そこに自分の写真があるのがすごく誇らしかった。買い物をした商品を入れるショップバッグにも選手の絵が描かれていて、楽しいよ。
中村:葛西さんはオリンピックに8回も出られていますが、初めて出たときの気持ちはどうでしたか?
葛西:僕が初めて出たのは1992年のアルベールビル1992冬季オリンピック。19歳と8カ月だった。輪夢君は2年後に18歳なので、僕よりも若いね。
初めてのときは、オリンピックはすごいんだという意識が自分の中に入っていて、余計にプレッシャーを膨らませてしまった。僕は緊張するタイプで、緊張すると失敗することが多いのだけど、あのときは頭の中が真っ白で、自分のパフォーマンスをほぼ出せなかった。あっという間に終わってしまったのが一回目のオリンピックだったね。
輪夢君は緊張する方?
中村:緊張はするけど、緊張で失敗するということはあまりありません。
葛西:それなら大丈夫だ。もしも緊張したら、合同トレーニングで伝授した呼吸法をやってみるといいと思う。しっかりイメージトレーニングをして、鼻から吸って口から吐くという呼吸法。
中村:はい、覚えておきます。それと、僕がいつも心掛けている「笑顔」も忘れないようにしたいと思います。初めてのオリンピックが東京ということで緊張すると思うけど、楽しんで演技することを忘れずにやれたらいいと思っています。
葛西:多分、競技人生の中で自国開催は一度しかないと思う。それが1回目にくるのは相当なプレッシャーがあると思うけど、笑顔で思い切ってやってほしいね。
中村:恐怖心の乗り越え方も、プレッシャーの乗り越え方も教わりました。いろいろなアドバイスをありがとうございます。
葛西:やばい、強くなっちゃう!いいなあ、こんな若くて強くなれたら。
レジェンドが教えてくれたアスリートとしての姿勢は、若い中村選手にとって、すべてが新鮮なようです。2人の会話はプライベートにも及びました。
葛西:オフはあるの?
中村:高校は通信制なので、ほぼ毎日練習しています。疲れのひどい日は休みますが、やることといったらアラームをかけずに寝ること。それが一番のリフレッシュですね。あとは、友達とご飯を食べに行ったり、普通に高校生っぽい遊びをしたり。でも、今はほとんど休む日はありません。とにかく自転車に乗っていることが楽しいので、苦になりません。葛西さんはどんなリフレッシュ方法ですか?
葛西:温泉だね。若い頃は輪夢君のように練習に明け暮れていたけど、いずれ疲れを感じる年もくる。温泉に行くようになったのは30歳くらいからなんだけど、これは、頭をリフレッシュさせるため。ジャンプはすごく頭を使うので、2、3本飛ぶだけで、体は疲れなくても頭が疲れるんだ。だから、できるだけオフのときは温泉にいって頭をリフレッシュして、競技のことは一切考えない。そうすることで頭がリセットされて、次の試合や練習で冴えてくる。
ところで、今後の目標は?
中村:BMXフリースタイルはワールドカップが年間5戦あります。まずはそこでどんどん順位を上げていきたいです。今のところ、自己ベストは9位。8位、7位と一個ずつ順位を上げられたら、オリンピックまでに表彰台に立てていると思うので、表彰台を経験してオリンピックでメダルを狙いたいです。
葛西さんの目標を聞かせてもらえますか。
葛西:46歳になっても目標は変わらないんだよね。オリンピックの金メダルが欲しい。一番の目標は2022年の北京オリンピックで金メダルを獲ること。それと、ワールドカップで最年長優勝記録を打ち立てたい。3年前につくった最年長優勝記録をまだ塗り替えていないからね。
ちなみに、僕が高校2年生のときに出たワールドカップの最高記録は7位だったので、輪夢君にはその記録を抜いてほしいな。
中村:良い目標ができました!
葛西:同じTeam Visaアスリートとして目指すところは一緒。オリンピックでメダル、金メダルを獲るという目標に向かって頑張ろう。今日はありがとう!
中村:こちらこそありがとうございます。葛西さんからメンタルのことやトレーニング方法など、いろいろなアドバイスをいただいたので、それをすぐに実行して、東京2020オリンピックでメダルを取れるように頑張ります!
*2018年5月時点
インタビュアー:矢内由美子